【プロ店長に聞く】“ミリ単位の接客”で多くの笑顔に出会う 第7回 前編 │ 光フードサービス株式会社 中島翔太専務
愛知県名古屋市の伏見駅から徒歩1分ほどの好立地に、2012年6月、赤身に特化した「八千代黒牛専門店」として、「椎名牧場」がオープンしました。
「大黒」など、すべて立ち飲みの店舗で展開する、光フードサービス株式会社の焼肉業態の店舗です。
特徴は、「一人立ち食い焼肉」というユニークなスタイル。「プロ店長に聞く」第7回前編は、光フードサービス株式会社中島翔太専務に、接客時の “ミリ単位”の距離感やそのココロについてうかがいました。
笑顔の源泉、「サプライズアプローチ」とは?

中島翔太専務
―“ひとつでも多くの「笑顔」と「笑い声」に出会いたい”というのが企業理念だそうですね。それを叶えるために、現場で実践されている接客方法にはどんなことがありますか?
月に一度、自分たちで項目を考えて、店舗ごとに抜き打ちチェックをしています。それを僕らは「MS(ミステリーショッパー)」と呼んでいますが……
僕らの顔がバレているので、全然ミステリーとは言えないんですけども(笑)。
―そうですね(笑)。
回答がわかっているテストのようなイメージで、100点を取って当たり前。
お出迎え、お見送りがきちんとされているかなど、本当に当たり前のことばかりなので、このMSが100点で初めてスタートラインに立てる。これが弊社の接客のベースになっています。
-まずは当たり前のことを当たり前に徹底する、ということですね。そこからさらに独自の接客方法があるのでしょうか?
はい。ここからどうするかがすごく大事で、これを現場では「SA(サプライズアプローチ)」と呼んでいます。
何が大事かというと、「サプライズ」なので、お客様をびっくりさせることで笑顔にしないといけない。
MSの項目は“絶対やらなきゃいけない基準”として明確ですが、「じゃあSAって何ができる?」を全員に考えさせなきゃならないんですね。
-具体的にどういうことをすればいいか、スタッフの方たちと話し合いを?
そうです。たとえば、肉の味付けについて二人組のお客様が「私はタレがいいな」「僕は塩がいい」と会話をしていたとします。
このときに「自分が接客するならどうする?」とスタッフに聞いたら、いろいろな意見が出ました。
-「両方食べたいなら、何とかしましょうか?」と提案するとか?
それもありました。他にも、一つおもしろい意見が出たんですよ。
「普通に選ばれた味のお肉を出していき、最後に、一つだけ選ばれなかったほうの味を出し、『お客様は塩がいいとおっしゃっていたので、一つだけ塩味にさせていただきました』と伝える」と。
こっそり後出しをすることで、うれしさや楽しさをサプライズ的に倍増させるわけです。
-なるほど!日常の接客のいろいろなシーンに、サプライズが生まれるんですね。
そうなんです。小さなことでかまわないので、SAを各店舗で考えさせて、月一のミーティングを設け、今月の目標として徹底してやらせていますよ。
基本のマニュアルにSAが乗ることで、いい意味でお客様の期待を裏切り、笑顔や顧客満足度につながっていると思います。
グラム売りという遊び心
-提供の仕方など、立ち食い焼肉のお店で特有の接客方法はありますか?
今は「グラム売り」を取り入れているんですけど、盛り合わせでも提供できますし、すぐに切ってできた肉から持っていって、お客様が食べ終わった頃にちょうど次の肉が……という提供の仕方もできます。
ちょっと高級なお寿司屋さんの接客のようなイメージを思い浮かべてもらえればいいかもしれませんね。
-お客様が食べ終わったところでサッと次の肉を出す……というのは、経験が要りますよね。そのタイミングの見極め方を、スタッフに教えたりするのでしょうか?
そうですね、経験もスキルも必要なので、タイミングを計ることももちろん教えています。
また、盛り合わせでガツンと出されたほうが喜ぶ方もいるので、「だいたい○○グラムだと○枚になりますね」などと話しながら、お客様が何を求めているのかを臨機応変に判断させています。
-お客様がお一人様であるがゆえに、グラム売りの形式なのでしょうか?
最初は枚数単位で提供していたんですけど、「これ、ステーキとかにして出してほしい人もいるだろうな」とひらめいて、グラム売りに変えました。
-枚数単位よりも、お客様の細かな要望に応えやすいのですね。
あとは、「グラムで注文を設定できる」という方法にすることで、お客様の遊び心をくすぐってあげることができて、笑顔になるんじゃない?と思ったんです。
ドカッ!と塊で肉を提供すると、「うわー!」と喜んでくださる方も多いんですよ。
ミリ単位の接客、接近戦の極意
-お客様の真の要望を見極めるために、スタッフとの距離の取り方で意識されている点は?
ここからは、おこがましい話をしますね(笑)。僕らの接客は「接近戦」と呼んでいます。たとえて言うと、他店の接客は“センチメートル”単位で調整。でも、僕らは“ミリメートル”単位で調整しています。
-接近戦、ミリ単位の接客とは、具体的にどのようなものですか?
僕自身の話だと、キャラクター的に、常連さんの肩をあえて触りながら「○○さ~ん!」と親しげに話しかけたりするんです。それを違うスタッフが真似てやってみたりするんですけど、うまくいかない。
「この違いが何かわかる?」と聞いても、最初は当然わからない。だって、先輩の接客を見て、そのお客様に対してはその接客方法が正解だとスタッフは思い込んでいますから。
-相手によって接客を変えるのは、今ではポピュラーですよね。
はい。それをわかっているから、スタッフは「このお客様にはこれをやればいい」と思うんですが、それはあくまでセンチメートル単位の接客。マニュアル的なイメージです。
ミリ単位の接客とは、「自分のキャラクターをよく理解し、接客に落とし込んだもの」です。その接客法を、お客様に合わせて実践しているのが「接近戦」です。
スタッフは、それぞれ個性の出るような接客をしています。
-ミリ単位とは、物理的な距離の話ではない、と。
「誰かがやっている接客法が正解なんだ」とは思わず、より多くの人の笑顔を生み出すために、自分自身のことを知り、己ができることは何なのか……というところまで突き詰めていくイメージですね。僕みたいに「○○さ~ん!」と親しく接するのが、その子のベストな接客とは限りません。
自分のキャラに合う接客で結果が出たら、「そのやり方で僕はやっていきます」と自信が持てるようになるはずです。
-「お客様を見てアプローチ方法を考える」というだけでも、笑顔を引き出す効果があるのはわかりますが、さらに「スタッフが自分の持ち味を生かす」という要素を加えることで、スタッフにもやりがいが生まれ、お客様だけでなくスタッフの高い満足度も得られるというのは納得しきりでした!
後編では、“一つでも多くの笑顔と笑い声を増やす”ための「人間力シート」を駆使したスタッフ教育のポリシーについてうかがいます。
(2017.1.11)
写真:八千代黒牛専門 立喰い 椎名牧場様にて撮影
八千代黒牛専門 立喰い 椎名牧場